父親は、もうすぐ禿げる。 笑いながら本人が話したことだ。
週末には必ず一時帰宅し、病院との摂取カロリーの違いに
喜んでいる。
三週に一回の抗がん剤の投与には、体を慣らす期間が
あるらしく、今までは比較的弱い投与で済んでいたが、
本格的な治療に移行するにしたがって、抗がん剤は強くなる。
次回には髪が抜けるほどの強さの投入があるそうだ。
ガン細胞を殺すには抗がん剤の投入が必要なのだが、
その際に促進の早い体の細胞も殺すことになる。
もし次回の投入で髪が抜けなかった場合、効きが弱いとして、
もっと強い薬が入れられる。 父親は自慢気に話した。
どうせ抜けるからと、髪を切った。 三十年ぶりのスポーツ刈り
だそうだが、なかなかに似合う。 本人は違和感があるらしいが、
それを友人に言うと、
「お前はいい。 病気が治れば生えてくるんだから。
俺なんかもう生えないんだぞ!」と言われたそうだ。
生粋のhageだ。 ガン患者が思わず同情したそうだ。
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